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東京高等裁判所 平成8年(ネ)2479号 判決

控訴人・附帯被控訴人(原告)

福山廣重

ほか一名

被控訴人・附帯控訴人(被告)

木津学

ほか二名

主文

一  原判決の主文第一、二項中、第一審原告らと第一審被告木津学及び同廣瀬通人に関する部分を次のとおり変更する。

1  第一審被告木津学及び同廣瀬通人は、連帯して、第一審原告福山廣重に対し金一〇三八万三一二二円、同福山宏子に対し金一〇〇二万三一二二円、及びこれらに対する平成六年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審原告らの第一審被告木津学及び同廣瀬通人に対するその余の請求をいずれも棄却する。

二  第一審原告らの第一審被告株式会社ユニテイー・インターナシヨナルに対する本件控訴をいずれも棄却する。

三  第一審被告木津学及び同廣瀬通人の本件附帯控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用(附帯控訴費用を除く)は、第一、二審を通じ、第一審原告らと第一審被告株式会社ユニテイー・インターナシヨナルに生じた部分は全部第一審原告らの負担とし、その余の部分はこれを一〇分し、その三を第一審被告木津学及び同廣瀬通人の、その余を第一審原告らの負担とし、附帯控訴費用は第一審被告木津学及び同廣瀬通人の負担とする。

五  この判決の第一項1は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴事件

1  第一審原告ら

(一) 原判決中第一審原告ら敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審被告木津学及び同廣瀬通人は、連帯して、第一審原告福山廣重に対し金一八二一万五二五七円、第一審原告福山宏子に対し金一八三八万四五八五円、及びこれらに対する平成六年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 第一審被告株式会社ユニテイー・インターナシヨナルは、第一審原告らに対し、それぞれ金二五〇〇万円及びこれに対する平成六年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(四) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

(五) 仮執行宣言

2  第一審被告ら

(一) 本件控訴をいずれも棄却する。

(二) 控訴費用は、第一審原告らの負担とする。

二  附帯控訴事件

1  第一審被告木津学及び同廣瀬通人

(一) 原判決中第一審被告木津学及び同廣瀬通人の敗訴部分を取り消す。

(二) 右取消しにかかる第一審原告らの第一審被告木津学及び同廣瀬通人に対する請求をいずれも棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

2  第一審原告ら

(一) 本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は、第一審被告木津学及び同廣瀬通人らの負担とする。

第二事案の概要

本件の事案の概要は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決「第二 事案の概要」(原判決書二枚目裏一行目から五枚目裏一行目まで)と同一であるから、これを引用する。

一  原判決への付加訂正

1  原判決書二枚目裏二行目の「横断歩道上」を「横断歩道脇」に、同三行目の「その相続人が」から四行目までを「その相続人が普通貨物自動車の運転者兼保有者に対して自動車損害賠償保障法三条に基づき、運転者の使用者であるとする会社に対して民法七一五条に基づき、更にその会社の代表者個人に対して事故後にした連帯保証契約に基づき、それぞれ損害賠償を求めた事案である。」に、同八行目の「西五反田三丁目一三番一一号山手通り」を「西五反田三丁目一三番一一号地先山手通り」に、それぞれ改める。

2  原判決書三枚目表四行目の「横断歩道上を」を「横断歩道(本件交差点内の山手通り上の目黒方面よりの横断歩道。別紙図面参照。以下「本件横断歩道」という。)脇を」に、それぞれ改め、同九行目の「青色のままであり、」の次に「目黒方面から進行してきた車両が」を加える。

3  原判決書三枚目裏三行目の「負担する債務」を「本件事故による損害賠償債務」に、同六行目の「被害者」を「被害者に生じた損害賠償権を」に、それぞれ改める。

二  第一審原告らの当審における補足主張―第一審被告木津の前方不注視

第一審被告木津が運転していた加害車両はトヨタハイラツクス四WDであり、運転席の眼高位置は地上約一・六メートルである。したがつて、第一審被告木津の本件交差点や本件横断歩道の状況に対する視野は、一般の乗用車に比較して良好であつた。加害車両は、本件交差点に進入する以前は右折車線の隣りの真中の車線を進行していたものであるが、その車線より被害者が横断を開始しようとしていた横断歩道際の歩道の位置あるいは被害者の歩行状況は、第一審被告木津が前方をよく注意していさえすれば、明確に把握できていたものである。

すなわち、加害車両の時速を当時時速六〇キロメートルとすれば、被害者が本件横断歩道を渡り始めたときの加害車両の位置は本件交差点の手前約一一九メートルであり、仮に第一審被告木津が主張しているような時速四〇キロメートルであつたとしても手前約七九メートルである。さらに、被害者が反対車線部分の横断歩道を渡るのに要する時間は約四・五秒であり、その間に加害車両が時速六〇キロメートルでは約七三メートル、時速四〇キロメートルでは約四九メートル走行することになるから、第一審被告木津がその間に被害者の動静に注意して気付いていれば、時速六〇キロメートルの場合約四五メートル、時速四〇キロメートルの場合約三〇メートルの手前で急制動の措置をとることができ、被害者死亡のような惨事を免れた可能性が強いのである。しかるに、第一審被告木津は、前方不注視のため被害者の横断に気付かず、そのためかかる急制動の措置を全くとらず、被害者と衝突する直前において急制動の措置をとつたものであり、この結果被害者が死亡したものといつても過言ではない。

三  第一審原告らの前記主張に対する、第一審被告らの認否と反論

第一審原告らの前記主張は争う。

被害者が、本件横断歩道を横断しようとした直前には、本件横断歩道の大崎寄り(本件交差点の中央付近寄り)の南端(原判決別紙図面上の本件横断歩道の右下)付近にいたと認められる。そして、この位置は、右折のため止まつていたトラツクや乗用車のため第一審被告木津の進行方向からは死角となつていた。本件道路は、いわゆる幹線道路であり、制限速度時速五〇キロメートル以内で高速運転することが認められている道路である。このような道路において、死角となつているトラツクの陰から赤信号を無視して飛び出してくる歩行者の存在を予知することは不可能であり、その予知義務及びそれに伴う危険回避義務まではない。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様について

当裁判所も、本件事故は、第一審被告木津が加害車両を運転し、対面青信号に従い、制限速度を少なくとも一〇キロメートルほど超過した速度で本件交差点を進行したところ、被害者が、歩行者用信号が赤色であつたにもかかわらず停車していた小山台方面への右折車両の間から本件横断歩道脇を小走りで渡ろうとし、加害車両が走行する車線に進入した結果生じたものであると判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決書五枚目裏三行目から一一枚目表一行目までと同一であるから、これを引用する。

1  原判決書五枚目裏四行目の「一四、」の次に「一八、」を加え、同五行目の「被告木津各本人」を「第一審被告木津(原審及び当審)各本人」に改め、同六枚目表四行目から五行目にかけての「その間のうち」を「右目黒方面への車両用信号が赤となつた後の大崎方面への車両用信号は、」に同一一行目の「加害車両」を「自己の保有する加害車両」に、同九枚目裏二行目の「少なくとも時速六〇キロメートルは出ていた」を「第一審原告らが主張するように時速七〇キロメートルで進行していたものと断定するだけの的確な証拠はないものの、時速六〇キロメートル強の速度は出ていた」に、それぞれ改める。

2  原判決書一〇枚目表七行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「なお、第一審原告らは、第一審被告木津の前方不注視を主張するので検討するに、前掲甲一号証、証人山口隆の証言、第一審被告木津本人尋問の結果(原審及び当審)並びに前記認定事実によれば、第一審被告木津は、本件事故後の実況見分の際、本件交差点の目黒方面側停止線から一〇八・八メートル手前及び三四・五メートル手前の各地点で対面信号が青色であつたことを確認したと述べていたが、他方、原判決別紙図面の〈1〉の地点で被害者が同〈ア〉の地点から小走りで横断するのを発見したというのであり、右〈1〉と〈ア〉間は一二・五メートルにすぎないことが認められるから、前記三四・五メートル手前で青信号を確認した時点と被害者の横断に最初に気付いた間の前方不注視の状況が問題になり得るところである。しかしながら、本件衝突時点の加害車両の対面信号は青色であつたことは前記認定のとおりであり、当時、原判決別紙図面〈A〉、〈B〉の各地点及びその後方に普通貨物自動車ほか数台の右折車両が停車しており、これらの自動車のため本件横断歩道上の視界が遮られる状況であつたことが認められる(山口証言)ところ、前方交差点の対面信号が青色を示しているときに、前方の右折車両待ちの停止車両の間から、赤信号を無視して飛び出してくる歩行者の存在を予知し、衝突を回避するまでの義務を運転者に求めることは一般的には酷というべきである。本件では、被害者は小走りに出てきたのであり、しかも甲五号証(実況見分調書)、証人山口隆の証言及び第一審被告木津本人尋問の結果(原審及び当審)によれば、当時停車していた普通貨物自動車(原判決別紙図面〈B〉)と衝突地点(同〈×〉地点)の位置関係から見て、被害者は車高の高い普通貨物自動車の前部を通つて小走りに出て来たもので、加害車両から見て死角となつた可能性が高いと認められ、他方において、本件全証拠によつても第一審被告木津に脇見その他特別の前方不注視の事実があつたことをうかがわせる証拠はないから、このような状況の下で、第一審被告木津に前方不注視義務違反があつたとまで認めることはできない。」

3  原判決書一〇枚目裏九行目から一一行目にかけての「以上の被告木津の過失と被害者の過失の双方を対比して勘案すると、本件事故で被害者及び原告らの被つた損害については、その八割を過失相殺によつて減ずるのが相当である」を次のとおり改める。

「以上の第一審被告木津の過失と被害者の過失の双方を対比して勘案すると、たしかに被害者側の過失には大きいものがあるといわざるを得ないが、本件交差点の信号が時差式となつているため、被害者は、目黒方面への車両用信号が赤色になつたのを認めて、不運にも、大崎方面への車両用信号も赤色となつたものと誤信した可能性があること、一方本件が死亡事故にまで至つたことについては第一審被告木津の相当の速度違反が原因となつていることは否みがたく(第一審被告木津において制限速度を遵守していれば、被害者をより手前で発見し得た可能性は高く、しかも衝突した場合にも死亡という重大な結果にまで至らなかつた可能性を指摘せざるを得ない)、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、本件事故で被害者及び第一審原告らの被つた損害については、その七割の限度で過失相殺により減ずるのが相当であると判断する」

二  第一審被告株式会社ユニテイー・インターナシヨナルの責任について

当裁判所も、第一審被告会社は、民法七一五条に基づく損害賠償義務は負わないものと判断する。その理由は、原判決書一一枚目表二行目から一二枚目表一行目までと同一であるから、これを引用する。

三  損害額について

1  入院関係費 合計一二万二五九〇円

内訳

(1) 医療費 一一万七三〇〇円

(2) 入院雑費 五二九〇円

以上1の認定理由については、原判決書一二枚目表三行目から同枚目裏一行目までと同一であるからこれを引用する。

2  逸失利益 四〇〇三万一五六三円

3  慰謝料 合計二〇〇〇万円

内訳

(1) 被害者本人 一〇〇〇万円

(2) 第一審原告ら 各五〇〇万円

以上2及び3の認定理由については、原判決書一二枚目裏七行目から一三枚目裏四行目までと同一であるからこれを引用する。

4  葬儀費用 一二〇万円

甲一六の1ないし10及び弁論の全趣旨によれば、第一審原告福山廣重は、葬儀関係費用として合計二四六万三六一六円(遺体運搬費用二八万五〇〇〇円、祭壇その他葬祭関係一式費用九一万二九八八円、お通夜料理代金五八万九五三八円、法要費用三五万二〇九〇円、石碑建立費用等三二万四〇〇〇円)を支出したことが認められるところ、このうち一二〇万円の限度で本件事故と相当因果関係ある損害と認めるのが相当である。

5  そうすると、過失相殺として七割を減額した後の損害額は、次のとおりとなる。被害者分については、第一審原告らが均分相続した。

(1) 被害者分(入院関係費、逸失利益及び慰謝料) 一五〇四万六二四五円

(2) 第一審原告福山廣重(葬儀費及び慰謝料) 一八六万円

(3) 同福山宏子(慰謝料) 一五〇万円

四  弁護士費用

本件の事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑み、第一審原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用は、第一審原告一人につき一〇〇万円をもつて相当と認める。

第四結論

そうすると、第一審原告らの第一審被告木津学及び同廣瀬通人に対する本訴請求は、第一審原告福山廣重に対し、金一〇三八万三一二二円、同福山宏子に対し金一〇〇二万三一二二円、及びこれらに対する平成六年一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める限度で理由があるから認容すべきであるが、その余の請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。よつて、これと異なる原判決を主文第一項のとおり変更し、第一審原告らの第一審被告株式会社ユニテイー・インターナシヨナルに対する本件控訴並びに第一審被告木津学及び同廣瀬通人の本件附帯控訴はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九三条、八九条、九五条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井史男 豊田建夫 田村洋三)

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